川越の自然を訪ねて(29)川越の田んぼから生きもののにぎわいを取り戻そう!

御伊勢橋から望む小畔川の遊歩道と桜
御伊勢橋から望む小畔川の遊歩道と桜

小畔水鳥の郷公園の桜のトンネル
小畔水鳥の郷公園の桜のトンネル

 東京のベッドタウンとして都市化が進む川越の地にあって、川越の自然も捨てたものではありません。とりわけ小畔川や入間川流域は美しい田んぼ風景が広がります。
 特に、吉田地区の田んぼは、角栄団地、伊勢原団地、吉田新町の公団住宅と、都市型大規模団地に囲まれながらもぼつんと取り残されたように田んぼが広がっています。
 東武東上線霞ヶ関駅を降り角栄商店街を抜け、霞ヶ関幼稚園を右に見ながらカーブする道沿いに進んでいくと、ほどなく小畔川に架かる高橋があり、この高橋付近から御伊勢橋に至る河川敷やその北側に広がる吉田の田んぼには、都市近郊の里山と言えるような風景や貴重な自然が残されています。
 高橋から御伊勢橋に向かう川べりは、小畔という名に相応しく小川のせせらぎの面影を残し、緩やかなカーブの遊歩道が整備され、四季折々の草花を楽しむことができます。車椅子でも散歩できるように人と自然にやさしい小道です。小畔川の河川敷ではバーベキューやのんびりと釣りを楽しむ人を見かけます。両岸の堤防は桜並木が続き川辺には葦が生え、その先の「小畔水鳥の郷公園」の周囲の遊歩道は、みごとな桜並木のトンネルとなり、春ともなれば大勢の人でにぎわいます。モズ、ツグミ、ムクドリなどの野鳥の楽園にもなっています。
 この小畔川の北側に広がる吉田の田んぼ地帯の一角に、みなみかぜいきいき田んぼの会(正式名称は「川越生物多様性有機農法で地域づくりに取り組む会」)が無農薬で米作りをしている、湧水を引き込んだビオトープを備えた田んぼがあります。この有機農法の田んぼは6年目となり、環境にやさしい田んぼにしか見られないホウネンエビや準絶滅危惧に指定されているイチョウウキゴケ、田植え前の畔や田んぼに広がるスズメノテッポウが多く見られます。また、数が減ってきたと言われるトウキョウダルマガエルも多く見られます。このように、無農薬の田んぼの周りは、生きものいっぱいで環境にやさしい自然を提供しています。
 田んぼの北側はなだらかな傾斜地になっており、その傾斜地が水を貯え、白髭神社のすぐ近くに小さな湧水池に流れ込んでいます。池の傍には昔雨乞いをしたといわれるお瀧様と呼ばれる石像が立てられ、その池から用水路を通って田んぼに湧水が引き込まれています。
 小畔川は、昔は現在の田んぼ地帯をくねくねと蛇行して流れており「小畔九十九曲がり」と呼ばれ、水車によって水が引き込まれ河川と田んぼが一体となった環境豊かな稲作地帯だったそうです。このため、吉田地区は、昭和30年頃まではホタルが飛び交う環境豊かな地域だったようです。
 みなみかぜいきいき田んぼの会では、吉田地区で生きものいっぱいの生物多様性による有機稲作を行っており、昨年、筆者が立ち上げた「かわごえ里山イニシアチブ」は、この吉田地区をモデルに、川越の田んぼからコウノトリ育む農法で環境にやさしい田んぼをめざして活動しています。小さな取り組みの第1歩ですが、生物多様性豊かな里山をこの川越に地から発信していけることを願っています。大きな輪となって川越の田んぼから生きもののにぎわいを取り戻そうではありませんか!
(増田純一)