【コラム】社会と環境について思うこと(1)グリーンインフラの可能性

グリーンインフラの多様な機能
グリーンインフラの多様な機能

 社会環境部会が新体制となりまして、心機一転、今回の月刊紙より、コラムのタイトルを「社会と環境について思うこと」に変更してお送りいたします。ですが、内容としましては前回の月刊紙の続きという心持ちで書かせていただいておりますのでご容赦ください。
 前回は、ウイルスとの共存を模索する日々の中で考えたこととして、自然は人々の居場所の防波堤になるのではということ、また、都市の境界を規定している自然についての2点を書きました。今回は、都市の境界にある自然という視点から発展して、グリーンインフラについて考えてみたいと思います。
 都市の社会基盤であるインフラの多くは、コンクリートやアスファルトで覆われたいわゆるグレーインフラです。しかし、このグレーインフラの方向性では、短期間での集中豪雨やヒートアイランド現象、また生物多様性の減少といった課題に対して対応できないのでは、という認識が広がってきました。川越でも昨年10月の台風19号による被害は大手メディアでも取り上げられ、記憶に新しいところです。
 こういった背景の中で、これからのインフラのあり方として数年前から注目されているのが、自然が有する多様な機能を活用したグリーンインフラというコンセプトです。ヨーロッパでは10年ほど前から議論が展開されているようですが、日本では、2015年に策定された第二次国土形成計画、第4次社会資本整備重点計画において、「国土の適切な管理」「安全・安心で持続可能な国土」「人口減少・高齢化等に対応した持続可能な地域社会の形成」といった課題への対応のひとつとして、グリーンインフラの取り組みを推進することが盛り込まれています。
 ただ、グリーンインフラはまったく新しい考え方というわけではなく、屋上緑化や雨水の浸透ます、多自然型護岸、緑の防潮堤などはグリーンインフラであり、こういった試みをより多面的に評価し、より広がりを持って実施していこうというのがグリーンインフラです。川越では、寺尾調節池や小畔水鳥の郷公園などは、まさにグリーンインフラの具体例でしょう。個人的にはたくさんの水を蓄えている田園地帯もある意味ではグリーンインフラとして機能していると思います。他方、川越の中心市街地においては、ポケットパークなどはありますが、グリーンインフラを象徴するような場所はまだまだかなという印象です。

身近なグリーンインフラ「小畔水鳥の郷公園」
身近なグリーンインフラ「小畔水鳥の郷公園」

 いくつかグリーンインフラに関する解説を読んでみますと、グリーンインフラとは自然の仕組みを利用し、雨水の貯留、浸透、流出抑制、汚染物質の除去、地下水涵養などを行い、洪水などの対策にしようとするものであり、その特徴として、良好な景観の形成、レクリエーション、浸水対策、ヒートアイランド対策、生物の生息地の場、環境教育の場、地域振興、地域の資産価値の向上などの多様な機能が期待されていることがわかります。この多様な機能に着目していることがとても興味深く感じます。自然を守り、保全していく対象だけでなく、自然をどのように活かし、どのように都市に取り込んでいくか、自然を社会と経済といかに結び付けていくかということが表れています。グリーンインフラは、自然環境が有する多様な機能を活かして、社会における様々な課題解決に活用しようとするものであり、持続可能な社会を築いていこうというSDGsとも親和性の高いコンセプトです。こういった試みが広がることにより、空から落ちてきた雨水が地面にしっかりと染みわたり、ここ数十年で失われてしまった地下水脈が回復していくことを期待しています。
(社会環境部会代表 増田知久)