【コラム】川越の自然をたずねて(88) 不老川の残したもの-水質改善から生きものが棲める川に

 1983(昭和58)年から1985(昭和60)年まで、不老川は公共用水域の水質調査でワースト1となって一躍脚光を浴びました。それまでは農作地帯をのんびり流れ、冬には流れが途絶え正月を越さないという伝説の川(トシトラズ)として、ふるさとの見慣れたのどかな景観の一部となっていました。水質は悪くなっても周囲の景観は自然の土手で、平地を流れる排水路としての役割は持ち続けてきました。

 この河川は、新河岸川の支流として一級河川に位置づけられ、河川管理は埼玉県に移管され、南部漁協が漁業権を持っています。不老川の水源は、東京都瑞穂町の耕作地から台地のハケとして浸透水が流れ出し、今福川、久保川などの支流を合わせて、新扇橋(砂・岸町)で新河岸川に合流しています。

 汚れた不老川の水質を改善するために、1998年に清流ルネッサンス(水環境改善緊急行動計画)と生活排水対策推進計画が策定されて、水質改善の取り組みが進められました。水質測定の基準点は不老橋です。浄化施設の設置、環流水の導入が行われましたが、主に下水道の整備で水質の改善は目を見張るものがありました。この結果、水質は著しく改善され、臭いはなくなり生きものも戻ってくるようになりました。川越市の生きもの調査ではアユやウキゴリの遡上や、ギバチやジュズカケハゼも見つかっています。付着珪藻の観察ではβm~αmで溶存酸素は10mg/Lを超え、水生生物が確実に生きられる水質に戻ってきました。そして水域の類型指定は2012年C類型となりました(川越市環境対策課の資料と説明から)。

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不老川の生物調査(川越市むさし橋付近)

 水質が改善されてから、不老川は「生きものの棲める川」をめざして"瀬切れを克服する水量の確保や水生生物の生息環境の整備、温暖化による降雨の洪水対策"が水環境の改善を進めるための今後の中心的課題となりました。この新たな課題に対応する組織として、県土、市による水環境改善委員会が結成され、不老川のモニタリングが行われています。瀬切れのモニタリングでは新扇橋付近で河床下2.5m(地下水位は23mくらい)です。狭山市での遮水工事に粘土を用いる工法が試行される予定です。

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失敗した遮水工事

 不老川の水環境を改善するには行政と住民団体の協力が欠かせません。「不老川を守る会」や"流域を守る会"などが不老川のクリーン活動を実施し、流域のあり方を考えて積極的な活動を展開して大切な役割を果たしてきました。守る会等の活動の中心は狭山市の住民で、残念ながら川越市での取り組みはわずかというのが現状です。

 熱気や関心が薄れ、イヌの散策や野鳥観察など静かな川べりに戻りました。しかし、不老川は福原地域の自然景観で、地域の環境を支え続けてきた貴重な川という視点から、きれいになった不老川を見つめ続けたのは"こどもエコクラブのこどもたち"でした。不老川を背中にしょって、行き帰りに眺めていた不老川に入り、水に直接触れ、川の生きものを探しました。2013年から2016年まで4年間、川に入って水の感触を確かめたり、生きものを探したり、水量が多いときはライフジャケットで川流れを体験したり、地元の農家の人に驚かれたりしました。その後、瀬切れが発生し夏の不老川観察は中止しましたが、当会が跡を継いで水生生物調査を続けました。

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水で遊ぶ子どもたち

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中福付近の改修工事

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歩ける川 瀬切れ

 子どもたちが見つけたのは、アユ、アカミミガメ(大きかった)、投網や簗で魚を趣味で獲る人など、少なくない人たちが不老川と関わりを持っていることでした。2019年の洪水で中福(狭山市との境付近)の護岸が崩れ、橋の改修と護岸工事が並行して行われ、今年の6月に修復が完了した後に不老川に行きました。そこで見た不老川は子どもたちが遊んだ時と変わって平瀬になっていました。1mほどもあった大きい石で作られた落差工は頭が見えるだけでほとんど砂利に埋まっていました。深みもなくなり平坦な川では水生生物が留まれる場所がなくなっており、探しましたが、稚魚とエビをわずかに見つけただけでした。雨が降れば急流となり、なければ瀬切れとなる都市河川では生きものが生き残るのは難しく、試行錯誤は続くとは思いますが、工事の影響から抜け出てちょっとはましなふるさとの川になってほしいと思います。

 私たちが不老川について活動しなければならない課題は、1.県の河川整備計画の学習、2.不老川の生きもの調査や現地観察会、3.市民の会との連携、4.「第三次不老川生活排水対策推進計画」に基づいた川越市との意見交換、5.不老川の歴史を掘りおこし後世に伝えていく(風化しないように)、6.地域の総合治水を考える、7.多自然型川づくりをめざす提言など、一時の情熱に身を任せるだけでなく、継続的かつ系統的な活動が求められていることでしょう。自然との付き合いは人の一生では測りきれない時間との付き合いとなるでしょう。

 今、不老川は護岸の両側がフェンスで囲われており、親水護岸は4か所程度で市民が川と触れる機会が少なくなっています。散歩や野鳥観察で通る人はいますが、関心を寄せる市民や関わる団体が少ないのが致命的な欠陥となっています。地域の環境を多面的にとらえる総合治水で市民や団体をつなぐ仕掛けが求められているのかもしれません。

(福原水と緑の会 過 昌司)